皆川榮治のニュースレター

第57号(2011年6月20日)

------------------------菅総理のリーダーシップと経営者が学ぶこと

......  311の東日本大震災は未曽有の大災害であったと言えます。

この様の大災害に遭遇し、被災地のみならず、日本国全体を復旧・復興への方途を国民全体が手を携え探

って行かなければなりません。

...... 国難とも言えるこの様な大問題を解決へと導く為には、国家のリーダーの役割は誠に重大なもの

があります。学校においては校長が、会社においては社長が、夫々学校、企業における多くの問題を解決

する為全員の協力を得て、リーダーシップを発揮し、問題解決に導いて行くのです。

...... 日本におけるリーダー、すなわち菅総理大臣のリーダーとしての仕事ぶりはどうだったでしょう

か?企業経営の観点から菅総理のリーダーシップを分析し、企業経営者のリーダーとしてのあり方を考え

ます。


.......
経営とは「トップの理念・方針を明確にし、幹部・従業員のコンセンサスを得て、これを

実現し、達成する活動」です。これについては度々お話していますが、経営トップの最大の役割は

自らの意思を組織全体に貫徹させることです。従って当然、経営トップ及び会社の意志が従業員全体

に確実にまたスピーディに伝わることが必要です。それも上意下達のみの一方通行では不充分で、双

方向、横方向の相互伝達が欠かせません。つまり、一般従業員の現状を把握しておくことが大切です。

........経営トップにおけるリーダーシップ発揮の不可欠条件は、的確な価値判断にある、と言わ

れます。また経営トップは、平常時ではなく、問題に出くわしたときにこそリーダーシップを発揮し

なければなりません。例えば大クレーム問題や大型投資案件に出くわすとき、経営トップはリーダー

シップを発揮し、的確な価値判断をしなればならないのです。国難に遭遇している今の日本は正に国の

リーダーがリーダーシップを発揮しなければならないときです。

..... .では問題に遭遇し、経営トップはどの様に対処すべきなのでしょうか?

....... 先ず重要なのは、現状認識であり我が社の状況を的確に把握することです。クレーム問

題の場合は特に時間の速さが求められます。トップが自分の責任で現場を把握し、特に顧客が答えを

待っているのですから、顧客に対し、自己の責任で対処することを伝えた上で、正しい現場把握を行

うことです。社内への責任追及や叱責によって、報告穏しをされる様ではトップ失格です。

....... かつて三洋電機の井植社長は石油ストーブで人身事故が4例発生したことを受け、自ら職を辞任

し、記者会見でこう語りました。「我が社の中でこの様な死傷事故を起こし、またこの様な事故が社長で

ある私のところに直ちに上がって来なかった。この様な会社をつくったことが私の責任である」として、

彼は職を辞されたのです。自己の責任を考えたが故の立派な決断だと評価されました。

....... 経営トップは自らの責任を明確にし、自らの責任で行動することが求められるのです。

...... これができるならば、配下の経営幹部たちは自ら進んで経営トップに従い、スピーディで正し

い顧客への対応ができるのです。

....... 大型投資案件ではどうでしょうか?

....... 自社の体力を超える投資額である可能性がある場合、将来この投資でプラスと出るか、マイナ

スと出るか、誰にも分りません。この案件を担当する部門の責任者ではとうてい決断できません。まして

や、財務の責任者が決断できるわけもありません。

....... 経営トップが決断せざるを得ないのです。決断のポイントはこの投資を行うことによる功罪を認

識した上で、自らの責任で投資するものは自らが必ず回収するとの決意の有無によります。

回収する方策も充分自らの責任で構想しておくことであり、自ら責任をとるところに、副社長以下の

幹部は付き随い、進んでついて行くのです。

...... リーダーの価値判断の要点は、自ら責任をとることと、現場(現状)を的確に把握するとこ

ろにあります。

....... 311の東日本大震災は日本のみならず、世界中に衝撃を与え、未曾有の大災難をもたらし

ました。

....... 311の東日本大震災のときの菅総理はどうであったでしょうか?

....... 残念ながら、経営コンサルタントの私の目から見ると失格と言わざるを得ません。

....... 先ず第1に、自らの責任をとらなかったことと、第2に、現場の把握が遅れたことです。

....... すなわち、その日は国会の審議中でしたが、直ちに審議は中断し閣僚会議が行われ、内閣はそこ

で今後2週間現地視察を行わないと決定したと言われます。

これは総理他閣僚が現地を訪ねると現地の被災地に迷惑をかけ、人手を煩わせ、現地が緊急の対策に集中

できなくなると言う理由からです。

....... 国のトップがなすべきことは、即刻現地に赴き、現状を把握し、被災地の人々に安心を与

、国の責任で方策を講じることを宣言することです。

....... この震災の3日後、台湾の李登輝元総統が「総理は直ちに官房長官と防衛大臣を伴って、現地に

赴き、現地での困難に対処すべきだ」と、語られたと聞きます。

.......事実、李登輝元総統は台湾の921地震(1999921)のとき、午前147分に地震が発生し

3時半には閣僚を集め、午前6時にはヘリを用意し現地に飛んでいます。私はこの日は朝までずっとテ

レビを通して、台湾政府の動きを見ていましたので、今でも記憶しています。その対処の早さと確実

さは秀れたリーダーそのものでした。雑誌「サピオ」最新号によりますと、李登輝氏が現地に降りた

とき、近くの婦人が「子供を助けて下さい。まだ中にいるんです」と叫んだそうですが、彼は直ちに

「すぐに助ける」と言って軍に人命救助優先を指示し、助け出したのです。

.......当然彼は参謀総長と総統府秘書長を同行し、現場に対処できる指示命令を的確かつ速に行った

のです。被災現地で多くの被災者から多くを学び、多くの示唆を受けた結果、多くの指示が出来た

と言っておられます。すなわち現場を見て判断し、指示できることの重要性を強調されています。

.......ひるがえって菅総理はどうだったでしょうか?初めて現地へ着いたのは20日後です。自分が現地

に行ったら迷惑をかけると言うのが20日間も行かなかった理由ですが、これは責任逃れ以外の何もの

でもありません。自らの行うべきことを放棄しています。

.......自分が今何をなすべきかを全く見失っていると言わざるを得ません。つまりリーダーとしての

価値判断を間違えているのです。

.......菅総理の行動をつぶさに見ているわけではないので、実際が見えませんが、少なくとも20日間

も現地を見ない、と言うのはリーダーとして完全失格です。国家であれ、企業であれ、人間の集団を

リードするトップが、価値判断の重要性と、的確性を求められるのは、組織経営論を知る人に

とっては常識であり、基本中の基本です。

.......これを知らずに、行動していたとあっては、総理になる資格は当初から欠けていたと言うことに

なります。彼は現地を見ず官邸で諸情報を聞くだけで指示を出していたのでしょう。

.......但し、菅総理の為に少し弁護するなら、第2原発の事故が大きかっただけに、福島への対処を第1

と判断したから震災地へは早く行けなかった、とも言えます。

.......しかし、これは得意分野である原発にはいささか自信があったので、的確な指示ができると勘ちが

いしたからであって、むしろ、その為に原発の現地では菅総理の罵声や叱責がひびき渡り、東電のトップ

を始め幹部たちは右往左往することになったのです。つまり地震の被災地でも原発の現地でも、その双方

に対してミソをつけたことになります。

.......李登輝氏はこれについて次の様に言っています。「閣僚級スタッフは被災地に行かずしてオフィ

スのみで決定するな」と。それに比べ菅総理は現地で現状把握し指示できることが沢山あり、多くの

人を助けることができるとのプラス要因よりも、現場で迷惑をかける、復旧の邪魔になる、とのマイ

ナス要因の方を重要視したと言うことです。価値判断の大きなミスに他なりません。

.......市民運動派出身の政治家であるから、さもありなんと言えますが、国民に安心を与えるとの使命

感も、復興方策を指示することへの確信も見えないヒドイ話であると言わざるを得ません。

.......菅総理は震災後、震災復興対策会議以下20もの会議を立ち上げたと言うことです。つまり彼の発

想には国の責任者として自分で見て自身で決定し、自身で行動するとの考えがないのではないでしょう

か?

.......社会派の人たちは往々にして議論を重ね、衆議を集めて、ものごとを決める人々が多く、これが正

しいやり方だと考えている人が多いものですが、こんなことをしていては国難と言われるこの事態には役

に立ちません。

.......地震発生の数日を経ずして、菅総理が現場を見ることの重要性を放棄した時点で、この国難に

対処できる人ではないことが、明白になったのです。

.......その結果今だに8万人以上の避難生活者がおられ、仮設住宅さえまだ半分も建っていませんし、す

でに建った家には半分の入居者が仮設住宅では生活支援が得られないので、入居しないと言っています。

.......国として実施すべきことに相互間の連携や整合性がとれていないからです。

.......原発事故の処理についても触れておく必要があります。震災後2日目に菅総理は福島原発に飛ん

で行きました。これは比較的早かったと言えます。しかし、降り立つや否や、幹部たちをつかまえ、

罵声を浴びせたり、叱責を始めたと言うのです。彼が行ったらなるほど現地に迷惑をかけ、復旧の

邪魔になることが実証されたと言えます。詳細は分りませんが、この大災害を受け、国民への安心

と安全を真っ先に示す国家のリーダーが現地に到着するや幹部たちの問題点を指弾し、批難し続け

たと言うのですから、下の者にとっては、だれも意見が言えなくなり、正確な情報や判断さえ伝わら

なくなってしまいます。

.......この結果は明白です。東電始め、経産省幹部たちは指示されたことには従うが、よけいなこと

は言わない。問題点は伝えない、問われなければ話さないことになります。これはどんな組織でも同様で

す。経営トップがどなりちらしたのでは、幹部たちは持てる力を発揮しなくなるのは至極当然のこと

です。

.......ことに菅総理は大学で原子力を勉強していたので、専門知識があったと言うことですから、よ

けいに口出しが多くなるに違いありません。他の原子力専門家にしろ、経産省の保安院幹部にしろ、

東電幹部にしろ、次から次へと出てくる問題にどう対処して良いのか?右往左往する姿だけが見え

て来ます。震災の被災地と異り、原発の現場をすぐに見に行ったのは正しい判断でしたが、罵声や

叱責の為、正しい現状把握ができなくなることが最悪の問題でした。

......全体の現状認識をまず行い、その全体像の中で解決方策の順序を決め、組織立って解決に取り

組むはずのものが、幹部たちをなじり、批難し混乱させるなどの繰り返しによって、正確な現状

把握をぶちこわしたのです。その結果、次々に出て来る問題にどう対処するか?だけが関心や検討の的に

なったと言えるのではないでしょうか?まるでモグラ叩きをやっている様な対応が福島原発第1発電所の

状況であったと言わざるを得ません。

......大震災の被災地及び福島原発第1発電所においても、この3ヶ月間の菅総理の対応は以上に見る如 

く、国家リーダーとして適格用件を備えていなかったと言わざるを得ません。

......それは、リーダーシップの不可欠要件と言われる「的確な価値判断」ができていないことが明白

になったからです。すなわち被災地に自らの責任で直ちに訪ねることを怠たり、国民に安心を与える

ことを忘れ、自らの判断で復旧・復興への手だてを指示できず、原発事故では現地を混乱させ、叱責

を繰り返すなどにより、現状認識を誤り、事故の解決を遅らせてしまったと言うことです。大震災後

の殆ど初動でこれらの判断ミスを犯してしまったのです。

......国家のリーダーのみならず、あらゆる組織・国体のリーダーにも共通することですが、

価値判断の的確さが不可欠です

......しかし、この様に不適切なリーダーの交替について、我国国民にも2つの対応が見られました。1

つは復旧・復興の進まない状況の中、国のリーダーを変えるなどを議論するより、みんなで復興に取組む

ことが先決との考え方であり、もう1つはリーダーがまちがっていては混乱が続き、復興への道が遅れる


で早急にリーダーを替えなければならないとの考え方です。

......結論から言えば、価値判断を間違え、打つべき手を打てないリーダーがいるなら、その組織は

混乱するだけです。しかし、下部にいる組織人員にはリーダーの誤りの為に組織内が混乱している

などのことが見えないのが普通です。組織論や経営論を理解する人ならいざ知らず、一般的には経

営を知る人は少ないので、リーダーを変えなければ混乱が益々続いていることがみえないのです。

......従って、今回の大震災でも同じことがあり、被災者の人たちを始め、一般国民の目には、復旧・

復興に全力を傾けることが優先で、リーダーを変える争いなど何の意味があるか?との感想を持つ

人が多かったのも事実です。国民の多くがこう考えても無理はありません。

......しかし国家や組織、企業を真剣に考え、その経営を理解する人にとっては、価値判断を間違え

るリーダーがいることは国民や人々に塗炭の苦しみを与えることになっています。言わば国家リーダーと

しては素人と思しい人がリーダーをやっているのです。従って何をおいてもすげ替えなければなりません。

......311東日本大震災において、菅総理が首相を勤めたことは当人にとっては夫命と受け取ったにち

がありませんが、初動後の数日を見るにつけ、国家リーダーの判断ミスとそれによる混乱は明白です。

......この国難を神が日本人及び世界に与えられたのなら、そこには日本の文化文明を整え、世界に

までそれを及ぼそうとする意図がある様に、思えてなりません。この20年間日本の社会はあらゆる方面で

以前の姿から変り、社会の乱れを言われることが多く経済が低迷したことは否定できません。経済規模

(GDP)は殆ど成長がありませんし、社会のみならず、学校や家庭にまで混乱や不調和が問題視されることが

続きました。

政治にもそれが現れ、ついには900兆円に及ぶ国家赤字をかかえると共に、更にもっと借金を続ける

国家になってしまいました。

東日本大震災も、以前の日本の状態も、国難であると私はこれまでも主張して来ましたが、戦後過去数10

年来の蓄積されて来た日本国全体の難題を解決する為の大きな一歩が、この東日本大震災であったと、私

は感じています。

......62に衆議院本会議で繰り広げられた菅内閣不信案提案はその第1歩であったと言えます。

「大山鳴動鼠一匹」の様な結果で、不信任案は否決される結果となりました。しかし、紆余曲折を

経て、菅総理は6月中に、辞めざるを得なくなっています。

......更に1年以内には衆議院解散があり、自民党政権をくつ返して成立した民主党政権が今度は倒

される結果になるのは明白です。

......自らの責任で判断し、自らの責任で行動し、決定できる本当のリーダーが近いうちに生まれ出て

来るものと思います。国民に心と行動で求心力を持たせ得るリーダーが生まれるでしょう。

......企業経営者にとっても他山の石ではありません。難題に遭遇するとき自らの責任で行動し、幹部た

ちを統括して的確な価値判断と現状認識の為し得る経営者が必要です。国家のリーダーのみなず、企業経

営トップにもこの覚悟が不可欠です。今何が重要か?の判断を間違えてはなりません。その為には経営を

学び、プロにならなければなりません。

......この国難に当り、日本の本来の文化文明を大切にするリーダーが現れることが待ち望まれます。誠

実・勇気・思いやり・克己などを心とする日本精神が戻ってくるものと思っています。自己中心主義とは

対極にある精神です。この心を備えたリーダーが現れます。

......戦後日本が最大の国難を乗り越えた様に、現代の国難は正にその時機であり、日本国民は求心力を

取り戻すことになるにちがいありません。(了)

(以上)