皆川榮治のニュースレター 第39号(2005年3月2日)

日 本 と 同 じ 品 質 を 作 る(Ⅰ)

 弊社の幹部訓練班の卒業生はすでに700名を超えました。

 彼らは大部分が教育や訓練に熱心な会社から派遣されており、また将来を期待されている幹部であるだけに、秀れた人材が集っています。学習意欲があり、仕事も早く説明が大変上手です。また、あいさつなども教えれば実行は早いですし、日本人の幹部人材と比べ損色ありません。元気さや活力ではむしろ日本人よりもはるかに優っています。

 ところが一つ大きな問題があります。個人個人の能力は日本人幹部と変らない、或いは時として、日本人より秀れている人材もいるのですが、製造においても、管理においても、営業においても、日本本社と同じ品質の仕事ができないことです。

 ときどき、彼らに、このことをどう思うか?と聞いてみますが、彼らも自認しており、台湾の品質レベルは日本よりも低いと言います。

 更に、その原因はどこにあると思うか?と聞いてみると、彼らの答えは或るものは能力というが、大部分の者は環境のちがいと答えます。この答えは正解とも言えるし、正解とも言えない面があります。

 今日のテーマは、”台湾において、日本以上の品質をつくるにはどうすれば良いか?”です。

 私は台湾において、すでに経営コンサルタントの仕事をして10年を超えましたが、私の取り組んだ最も主要かつ最大のテーマは台湾人たちに日本人並みの或いは日本人以上の仕事をさせるにはどうすれば良いか?でありました。
 
 10年來の経験から得た結論は、一言で言えば、”理念の貫徹”即ち、思想教育の不足です。

 もっと分り易く言えば、「国家、社会、顧客への貢献」を全従業員の仕事を通して実現する、ということが不徹底なのです。

 これは経営学の大原則と一致しています。日本の秀れた会社では、経営トップ自らがこの理念を貫徹する使命に燃え、会社全体に、この精神を貫いて来ました。

 トヨタ自動車は押しも押されぬ日本を代表する世界企業になりましたが、営業においても、生産においても、お客様満足を求め、次工程はお客様、お客様(次工程)には不良品を提供しないことを、従業員の末端に至るまで徹底して来ました。
 台湾市場においても、この精神の徹底努力が続けられ、04年には逐に、Topに踊り出たことはご存知の通りです。

 私が以前勤務していた湯浅電池という会社は、その起源が1666年の発祥にあり、湯浅庄九郎という人が京都から刃物を持って、江戸や大阪に行商に行き、成功をおさめたのですが、彼のモットーは”炭屋請け負いなし”というものでした。
 つまり、炭屋(彼の屋号)の商品は取り替えをしない、絶対に傷物、不良品は提供することはない、と言って商売し、信頼を獲ち取ったのです。

 この理念が、300年も経営が続いた由縁でした。しかし、最近の日本の企業もサラリーマン経営者が数多く出現するに伴い、経営者の役割を忘れ、経営者自らが理念の徹底をしなければならないことを忘れてしまっている。或いは、知らない人が多く出て来ました。

 ユアサも同じ運命にありますし、三菱自動車や雪印、最近では、巨大マスコミまでが、この様な状況にあります。

 お客様に、不良品を数多く提供しても或いは従業員に不祥事が続いても、経営者自身が理念の徹底をしているとの意図を持っていない為、それら不祥事が自分の責任だとの自覚を持っていないのです。

 経営トップは理念や方針を貫徹し、実現することが最大の仕事ですが、それを忘れて、その下位にあるシステムや方法論の実現ばかりに気を取られています。この場合の彼の理念は業績を挙げることだけになっています。これでは部門管理者にしか過ぎません。

 不祥事が起こると、この様な経営トップは必ずと言っていい程、次の様に語ります。

 「うちの幹部がそんなことをするとは思っていなかった」。つまり、裏切られたと言って、その幹部の責任にしているのです。自分の責任ではないと言っているのと同じです。本人は気づいていません。

  さて、最近の日本企業もこの様な事例が多く困ったものですが、日本の多くの企業にはまだまだ昔からの伝統を受け継ぎ、お客様の為にどの様に貢献するかを日夜努力している会社が大企業にも中小企業にも数多く見られます。

 これは戦前から引き継がれて来た発想が会社の中に根づいているからです。

 「お客様第一主義」とか「お客様は神様」、「次工程はお客様」という考え方が工場現場の末端にまで浸み込んでいるのです。「炭屋請負いなし」は340年も前に言われたことばです。店員の1人1人にまで良い仕事をするとの発想が浸透し、良い製品をつくることはもちろん、お客様に親切な声をかけることもできます。

 会社に入ったら、どんな新人でも、上司から教えられ、先輩からも話を聞かされ、良い仕事をしようとの意識が生れて来ます。

 そう言う意味で日本の多くの企業には、良い仕事をしようとの責任感が出て来る様な環境が出来上がっていると言えます。

 冒頭に書きました様に台湾人幹部達が台湾の品質レベルが日本よりも低い理由について「環境のちがい」、だと答えたのはその通りと言えます。台湾の会社には、その様な環境はない、と言えます。

 
~(以下、次号に続きます)~

新原経営顧問(股)公司