皆川榮治のニュースレター 第37号(2004年5月10日)

選挙後の抗争は民主化学習の代償、中国と距離を置く台湾の選択は正解

 総統選挙後の抗議行動もようやく落ち着いて来ました。いよいよ10日(月)から票の再集計が行われ、5月20日(木)の総統就任式までに結論を出すとの段取りになっています。この間の抗争は、誠に法治国家としては恥ずかしい状況でしたが、却って台湾国民全体が勝手し放題のやり方に対する、正しい批判の目を養うことができる良いチャンスに恵まれたと見るべきでしょう。また、かっての国民党一党独裁の圧政を知らない世代が、何でもありの論理(ヘ理屈でもウソでも通してしまう)の悪質さを経験する、良い機会であったと言えます。

 3月20日の選挙投票日以降約50日が経過しましたが、この50日間は'88年以後積み重ねて来た台湾の民主化が本格化して来たのを受け、特にブルー系(国親連合)が民主化の恩恵を充分に活用した50日間だったと言えます。かつてブルー系の人達は国民党独裁時代に台湾人民を抑えつけて来たわけですが、この50日間抗争において民主主義と言う錦の御旗を立て、言いたい放題、やりたい放題の民主化路線を実践した、と言うことです。彼らの狙いは正に、中国政府の介入まで構図に入れた暴動と、それに呼応する軍事クーデターのあったと言われています。4月26日の李前総統と陳総統とが、同じ日にこのことに言及したのは根拠に基づいたことであったと言われています。

 さて、経営判断的に台湾の現状を一言集約的で言い表すならば「真の民主化への転換に、生みの苦しみを味わう台湾政治社会」と言うことができましょう。

 これからの4年間は真の民主化への道を、さらに確実に前進することになることでしょう。

 選挙前にも申し上げましたが、今回の台湾総統選挙での民主化の勝利が日本に与えた影響は、大きいものがありました。日本人の台湾に対する見方が変りつつあります。民主主義の道を着実に歩む政治実体として、台湾を認識し始める動きが顕著になったことです。

 最近、李登輝前総統も金沢から来台した「八田与一友好の会」の人達の日本招待に対し、以前は「今は日本の政界には支持してくれる人達がいないので訪問できない」と言っていたのに、今回は「日本の政府も少し変わって来たから、考えてもいいかも知れない」と言っています。日本も変り始めているのです。

 このことは、台湾との距離が近くなると言うことのみならず、中国との距離が遠くなると言う意味にも繋がっています。産業経済界も中国投資熱を反省する動きが出始めており、徐々にタイやインドネシア、マレーシア、ベトナムへの回帰の動きが出ています。台湾にも同じ動きが出始めています。

 労働節後の連休明けの5月6日、中国政府は突然景気過熱防止を目的に鉄鋼、アルミ、セメント業界の投資抑制と融資ストップを決定し、発表しました。不動産業界の景気過熱は今までにも言われていましたが、政府が公にこれを是認したのは初めてのことです。台湾経済界は、これを冷静に受け止め、台湾経済への影響は少ないと説明しています。即ち、中国の家電や自動車が減産することはないので、それらへの機械加工向け鋼板は影響を受けないと見ているのです。

 しかし、今回の引き締めは景気過熱抑制の第一歩に過ぎません。これに続き、生産過剰となっている業種が次々と不況業種入りする可能性があります。

 鉄鋼、セメント、合成樹脂はその代表例で、これはなにも不動産用のみに限定されているのではなく、あらゆる用途を含めた全生産量規模が過大投資となっているのです。建設ブームと見るや、地方政府は中央の意向にお構いなく、また住民の公害苦情は一切無視をして増設を図り、今や過剰生産になったと言うわけです。いわば投資が無政府状態の中で行われ、ツケがまわって来たと言うことです。間もなく、鉄鋼は値下がりを誘発する危機すらはらんでいます。要注意です。この数ヶ月、中国の動きは目を離せません。

 従って、陳政権を選択した台湾は中国と距離を置くこととなり、これは賢明な選択と言うべきです。

 日本は、イラク派兵をきっかけに国際的信頼も確立し、外交的にもややしっかりし始めて来ました。対中国、対韓国、対北についても徐々にしっかりした態度を取ることになるでしょう。そして、中国との距離を置くことを選択した台湾に対しても、民主実体を評価し尊重する姿勢(ニュースレター35号、外務省外交パネルレポート参照)を強めて行くことでしょう。

 李登輝前総統の日本行きに対する日本政府の反応は、その試金石と言えましょう。

新原経営顧問(股)公司