皆川榮治のニュースレター 第35号(2004年2月20日)

320選挙の重大性(2)

(前号からつづく)

 日本と台湾との関係は1895年以来、109年にわたり営々と築き続けて来ましたし、今現実に台湾で仕事をする私達日本人もその一翼を担っているわけです。ですから、今台湾が「一つの中国」への回帰を選択するなら、中国の大中華帝国実現を現実のものにする第一歩になる可能性が大です。これは軍事力を交渉手段に使えない日本にとっては大きな脅威です。

 従って、日本は国益を考えるなら今グリーン系を支持し、日台関係の強化をはからなければならないのです。

 前号(第34号)で触れました外務省外交パネル(座長:東大北岡教授)は、台湾に関し次の様にレポートしています('03年9月報告)。

 「中国との『懸案事項』の中でも最大の課題は『台湾問題』であろう。台湾は民主化を遂げ、強力な経済力をも獲得するに至っており、APEC等への参加も認められている。そうした『事実』を、日本外交の枠組みの中でも『再評価』していかなければならないのではないか。民族自決の原則からみれば、台湾の自主性を尊重しないのは理論的に筋が通らない。また、日本の周囲に親日的で経済力を持ったデモクラシーが存在することは、日本にとって重要なことである。多少は中国との関係がギクシャクしようとも、こうした観点から、台湾との関係を再構築することが必要だろう。」

 このパネルは川口外相が10名の学識経験者に委嘱して諮問したものであり、今後の台湾外交の方向を提案したものです。台湾との関係に関し、従来の「民間交流のみに限定」という関係(枠)を超えて、新たな政治的展開も提案しています。

 ところが今回の外務省→交流協会への訓令は、中国に気を使った中国尊重一辺倒外交以外の何ものでもありません。多くの台湾人からは対中尻軽外交と言われており、一昨日李登輝前総統は中国語の「武士道解題」発行記念パーティで、語気を強めて「中国の圧力に屈して台湾の国民投票を妨害する日本人は、武士道を忘れ軟弱になった」と語ったと伝えられています。要するに腰抜け、腑抜けになったと笑われているのです。

 皆さん、一つ立ち上がってみませんか?日台関係の強化に日頃尽力しておられる日系企業経営者の皆さん、気概を見せようではありませんか?
政治的な意志を表明することは、商売や仕事に差し障りがあるなどと気にしていては、本当の仕事は出来ません。誰でもしっかりした自分の政治意志を持っていて当然なのですから。

 今、日本人は国益から見て、台湾及びグリーン系を支持すべきであることは冒頭申し上げましたが、2月28日の「人間の鎖」に参加したい方があれば、ご連絡下さい。いっしょに参加しましょう。午後1時半頃の集合になります。詳しくは別途ご案内いたします。


 さて、日本或いは日本人が台湾を支持する以上、中国に対する評価・見方を明確にしておく必要があります。台湾人の中にも、中国への見方が大きく分かれているのですが、日本人の場合も同じです。即ち、中国の発展ぶりを目の当たりにして、中国との関係を強化しておくことが国益に合致すると言う見方があります。それも相当数あります。

 過去数年、経済成長率は7%を切ったことがありませんし、昨年はSARSの影響も何のその9%を超えました。それ以前はもっと大きく、10数%の成長を続けていました。電気製品、電子業界の発展も目を見張るものがあります。携帯電話も1億5千万台普及しました。上海には25階建て以上のビルが3000棟も建っています(日本は全国で1700棟しかない)。自動車生産台数は昨年400万台を超え、世界第4位(米、日、独に次ぐ)となり、英国、フランスを抜き去りました。

 また今や、この数年急激に高まった電機、自動車等の生産急拡大で、鉄や非鉄金属等の基礎資材や、高度で良質の製品をつくる機械設備に対する中国の需要は旺盛なものがあり、基礎資材の値上がりはデフレ時代を忘れさせる程のものがあります。中国では、価格はさておき、量を買い集める状況が現出し、価格が上昇しています。日本や台湾の機械設備メーカーは大いに潤っています。

 この様な状況の中、日本や台湾の企業は中国での生産を求め、多くの投資を続けています。即ち、中国の生産発展を共に享受し、利益を挙げようとしているのです。従って、今後も一層中国との関係を緊密にして行くことが、利益に直結すると考えるのは自然の成り行きです。

 従って、台湾でもブルー系が中国との三通や交流の増強を主張するのは、世界の流れに乗った考え方であり、グリーン系の様に中国との距離を置いていては、敗北してしまうと言う主張が、正論として成立つのです。


 しかし、ここで考えなければならないことが2つあります。第1は中国の隠蔽体質であり、第2はコスト負担の先送り体質です。

 ご承知の通り、日本や台湾のマスコミは中国での支部開設に当り、中国の恥部や、中国にとってのマイナス情報を報道することは許されていません。NHKの中国報道を見ていると、中国礼賛で貫かれています。中国のすばらしさ、中国の奥深さ、中国の発展ぶり、中国の懸命さだけが伝わって来ます。20数年前にNHKの報道で、某日系企業の労働争議を取り上げたのを私は見たことを覚えており、争議の深刻さを感じたものでしたが、その続編が放送されないので不思議に思っていました。後で分ったことは、この様な報道をするNHKは中国から出るようにと命じられ、それに屈した結果、続編の放送を取りやめたのです。それが、中国についてのマイナス報道の最後であったようです。

 昨年のSARSがどれだけ中国の隠蔽が有ったかは、ご存知の通りです。年間20数万件起きていると言われる労働争議や暴動が、なぜ少しも報道されないのでしょうか?それは、そんな報道を流したら外国から中国への畏敬や尊敬がなくなるし、何よりも外国投資がなくなります。それでは中国の生産は一挙に停滞することになりかねません。

 中国の税制は地方(省)が中心で、中央政府には地方税収を上納するかたちになっています。従って、中央への上納を増やす為には、地方の税収が増えなければなりません。その為、地方での生産はどんどん伸びなくてはなりませんから、外国投資は大歓迎です。中央への上納金は、中央政府の経費、人件費に使われる他、全国にある国営企業の赤字補填に使われます。全国の国営企業には地方の幹部も大勢働いており、大きな赤字を抱えていても潰されては困りますから、どんどん中央政府から上納した税金を還元して貰う、と言う悪循環が続いています。

 2001年にピッツバーグ大学のトーマス・ロウスキー教授が「中国の統計に何が起きているか?」と言う論文を発表したことがあります。これによると、'98年から'01年の4年間に中国のGDPは年率7~8%で累計34.5%増大しましたが、同じ政府の統計で同時期のエネルギー量は5.5%のマイナス成長である。」と疑問を呈しました。代替エネルギーに転換した形跡もない中国が、なぜ高度成長を支えるエネルギー消費量の増加がないのか?隠蔽するのも徹底してやらないと、ボロが出ると言う類かも知れません。


 さて第2の問題、それはコスト負担の先送りです。

 その1つは国営銀行、国営企業の不良債権です。既に政府の発表でも、銀行貸付残高の28%に昇ると言っていますが、実際は50%に達すると言われています。またIMFの発表で、中国のGDPに対し国営銀行不良債権金額の割合は40%に達するとしています。日本のGDP比4%と比べると、遥かに大きく深刻であることが分ります。

 2つ目のコスト負担先送りは環境問題です。台湾では「砂塵暴」と言われていますが、今年も1月の初めから大陸の黄砂が毎日の様に台湾全土を覆っています。これは昔からあるもので、主としてゴビ砂漠から季節風に乗って春先に飛来すると考えられていますが、近年のものは様子が違って紅樹林の伐採や湖沼の埋め立て、地下水の使い過ぎによる河川の枯渇、生活用水、工業用水の垂れ流しによる汚染、工場からの排煙等々が原因で、硫黄やヒ素を伴って飛んで来るのです。従って、花粉症と同じ様な症状を引き起こしており、今年は台湾中の眼科が大忙し、薬局から目薬が売り切れると言う状況が続いています。今年になって初めてマスコミが取り上げ始め、予報まで言うようになりましたが、台湾ではまだ研究が進んでいない様で、空気中に微生物が混じっており、これが眼を悪くするなどと言っています。

 これら生産活動や日常生活にとって、負担しなければならないコスト負担を全くと言っていい程していない、即ち、将来にツケを回していると言うのが中国の現状実態です。

 3つ目は失業者問題があります。政府では6千万人と言っていますが、農村の仕事のない人も含めると2億人、即ち人口(13億)の16%の失業者がいることです。彼らの生活費もどこかで負担しなくてはなりません。

 4つ目は一人っ子政策によって戸籍を持たない人々が1億人近くいると言われ、既に成人年齢を越える割合が多くなるにつれ、売春と泥棒の温床、或いは予備軍になっていることは疑いの余地はありません。

 5つ目は汚職と賄賂の横行です。今6000万人と言われる共産党員は、全て中央、地方政府、国営銀行・企業の役員になっており、許認可を初め行政指導に伴う権益と結びついています。共産党支配を壊したなら、貴族階級とも言うべき自分達の生活が無くなるのですから、権力を使ってでも、或いはどんな理屈を使ってでも体制維持を図るでしょう。

 汚職と賄賂の横行が目に余ることは中央政府も把握していますので、時々見せしめの逮捕者を出していますが、焼け石に水と言うべきでしょう。

 6つ目の問題は、拝金主義と合体した利己主義者の多いことです。私が中国に行ったのはわずか6度ですし、居住したことはありませんので、人民の生活を直に体験したわけではありませんが、わずかの出張旅行中の触れ合いの中でも、利己主義の強いことと人への思いやりのなさを経験しました。紙面の都合で事例は省きますが、利己主義と結びついた拝金主義は企業内のコミュニケーションにも影響しています。

 従って、中国での企業経営はコミュニケーションの問題が大変重要な課題だと言えるでしょう。

 最後の問題は、帝国主義的発想です。即ち、中華大帝国を目指して国際外交政治に当っている、と言う実態があります。

 具体的にはいくつもの事例がありますが、日本との関係で強い日本の復活を許さないと言うことと、台湾に対して武力放棄はしないと言うことの2つに集約されます。

 日本に対しては靖国神社問題で絶えずプレッシャーをかけることと戦前、戦中の残虐行為記念館を全国に40数箇所建設することによって、対日優位を継続しようとしています。

 最近の研究では、あの「南京大虐殺」でさえ中国国民党のプロパガンダであった(英国人記者ティンパーリーに契約して書かせた)との証拠が発見されており、また昭和13年当時の南京方面第6師団の400名以上の兵士による1,000ページにのぼる文集が見つかり、戦闘後3日間の停留期間中残虐を思わせる記事が皆無であることも明らかになっています(詳細は雑誌「正論」2003年4月号、9月号及び小学館文庫「新資料発掘1937南京大虐殺の真実」参照)。

 台湾に対しては、絶えず武力放棄はしないと公言していることはご承知の通りで、アジアでの覇権を狙っているのは明確です。この発想を近隣の民主国家が受容するには、隷属以外にないわけで、日本も台湾も中国への見方に対し国論が2つに分かれていますが、民族の誇りを持つ国家なら受容することにはならないでしょう。

 以上の様な中国の2つの側面を見るにつけ、発展の目ざましさと活動の素晴らしさに目を奪われるか、コスト負担の先送りを重視するかが分岐点になります。

 台湾においてブルー系は前者をとって利益を得ようと考え、グリーン系は後者をとり警戒感を強めています。この結論は明白で、台湾が一国家として将来を見据えるなら、必要の範囲で接近・交流を深めつつ、主体性を持ちつづけること、これが選択の道です。

 日本は、既に独立国家であることを除いて、台湾と全て同じ状況にあり、中国とは一方で友好を深めつつ、警戒をゆるめないと言うのが基本政策です。

 従って、台湾の320選挙に当り、日本或いは日本人は台湾の同じ立場をとるグリーン系を支持することが必然と言えるのです。


 日系企業経営者の皆さん、どうぞしっかりとした政治的見解をお持ち下さい。表明するしないに拘らず、企業経営しようとするならば経済と不可分の政治をしっかりと見据えておかねばなりません。


 最後に、320選挙に関連してもう2点考慮しておかねばならないことがあります。

 1つ目は、台湾が将来どんなかたちにせよ中国と統一するとなると、前述の様な先送りされたコスト負担は統一後の中国が負うことになります。即ち、台湾からの持ち出しになることが必定で、東ドイツを吸収した西ドイツが10年にわたりその負担に苦しんだ様に、台湾の負担が大きくなり、台湾の景気後退は避けられません。企業は大陸へ移り、貧しい人民は富を求めて台湾へ流れて来ると言った現象が起こりかねません。従って、台湾はすでに中国と違った民主体制が出来上がっているのですから、中国と別個の政治体制を選ぶことが賢明なのです。

 2つ目は、グリーン系が勝った後の日本への影響です。

 320選挙でグリーン系が勝てば、日本には「台湾の民主主義は発展しつつあり、いよいよ民族自決の気運が出てきた」ことに気付く人達が増えることでしょう。それによって、政治に無関心な人達の間にも「うかうかしていると危ない、日本にも民族自決の気概が必要だ」との気運が高まることに繋がります。

 弟分である台湾に教えられる結果が現出するものと考えています。
(了)

新原経営顧問(股)公司