皆川榮治のニュースレター 第33号(2004年1月6日)

320選挙の影響

 明けましておめでとうございます。
 2004年を迎え、台湾はいよいよ320決戦のときを間近に控える時期になりました。これから2ヶ月半余り、冬季にも拘らず台湾の政治は正にヒートアップの季節を迎えます。
 率直に言って、この320総統選挙が台湾にとって天下分け目の戦い、即ち関が原の合戦になることは論を待ちませんが、台湾の命運を決めるだけにとどまらず、日本を含む東アジアの情勢にも大きく影響を与える決戦になることは間違いありません。
 そこで、この選挙についての私の見方を申し上げ、ご批判を頂きたいと思います。
 まず第1は、結果がどうなるか?と言うことですが、「陳水扁総統の再選成る」と考えています。現状(12月末)諸調査によりますと、本土派(グリーン系)35%、統一派(ブルー系)40%で統一派優位と見られますが、浮動票が25%あります。問題はこの浮動票の内容です。私はいろんな台湾の友人や知人に320選挙についての意見を聞きました。その結果言えることは、殆どの方は自分の意見を簡単には表明しない、と言う傾向に気付きました。選挙を3ヶ月後に控えて12月末の時点でもそうです。更に9月6日の正名運動の大デモンストレーションに参加したときにも、行進している50才ぐらいの女性が、次の様に言うのを聞いたことがあります。彼女は行進しながら写真を撮られるのをいやがっていましたので、私が「どうして、いやがるのですか?」と聞きましたら、「ここに参加していることが知られると、仕事に影響するから」と言うことです。
 即ち、本土派支持の態度を明確にしている人ですら、従来の職場(特に公務員の場合は強い影響がある)における空気は国民党の影響力の中にあり、「本土派」「グリーン系」「民進党」「李登輝」と言う言葉が使えない状況にあります。従って、多くの人々はまだまだ明確に自分の意見を表明できない人がいる、と言う現状です。よって、25%の浮動票の多くは意見表明を恐れている人々であると言うことが出来ます。逆に統一派の人々には、そんな心配や恐れはありません。従って、現在の35対40は、むしろ均衡していると断言していいと考えられます。更には320選挙に向けて中国が1度や2度圧力的発言をするに違いありませんので、これによってまたグリーン系の支持率が上昇することが予想されます。
 もう一つブルー系陣営の中で連戦にとっては、副総統候補の宋楚瑜がいささか面倒な存在になり始めています。即ち、中興票券事件を始め、お金に対する信頼感の欠如が段々拡がって来たと言う弱みがあり、むしろ馬英九台北市長を副総統に選ぶ方が勝利の可能性が大きい、との見方が出ています。しかし、これは宋楚瑜が死亡でもしない限り事実上不可能なことと言えます。そういう意味でブルー系離れが起こる可能性があります。
 以上が結果についての私の見方ですが、次にグリーン系、ブルー系両陣営の戦略を見てみましょう。
 何と言ってもグリーン系には大戦略家がいると言うことが、何と言っても強味です。もちろん李登輝前総統のことですが、数ヶ月前までのグリーン系の劣勢 ―― それも陳総統の妥協に妥協を重ねて来た政治力の不足に起因する劣勢ですが ―― これをここまで盛り返して来たのは、グリーン系を勝たせなければ台湾の民主化は後退し、果ては中国に併呑されかねないとの危機意識に基づく戦略構築があったからこそと言えます。
 即ち台湾は中国とはちがう民族であり、台湾が一個の独立した、また民主的に進歩した国家であることを将来に渡って築いて行こうとの戦略です。その為に国民党独裁で培われた中国意識を脱出し、台湾意識を創成しようとの方向づけのもと、中華民国不存在論、正名運動、改憲運動とたてつづけに台湾本土化を常識化しようとの諸策が打たれています。即ち、こわがらずに、心配せずに台湾人意識を叫ぼうとの国民意識を醸成しつつあります。昨年10月には、それまで野党と妥協を重ね、中国とも話し合いの道を探ってリップサービスを続けてきた陳総統も、とうとう改憲発表(06年に新憲法施行のスケジュール)、320選挙時の公民投票(中国の武力不行使を求める住民投票)を行う旨、発表しました。これには中国政府が直ぐ反応し、中国海岸496基のミサイル配備に関するスパイ容疑で、台湾人企業家24人を含む42名を逮捕しました。320選挙に向かって陳総統は従来の方向を転換し、本来の独立志向の立場を益々明確にして行くことでしょう。
 更に李登輝総統は、正名運動の延長線上で320選挙前に台湾人民がこわがることなく台湾意識を表明できる環境づくりを進めています。即ち、今年の228記念日に100万人大集会で、台北から高雄まで人間の鎖をつくると言う構想です。どんな形であれ100万人集会が成功すれば、一般大衆がグリーン支持への転換がし易くなるでしょう。
 一方、国民党、親民党のブルー系は、この選挙戦ではグリーン系の大戦略に対し、全てが後追い式の対応をしていると言うのが特徴で、国民党財産につながる産業経済界を中心とする人間関係、10数年来築いてきた宋楚瑜の現金バラまきによる人間関係、それと国民党系実力者が未だに権力を握っている特務機関の活用によって選挙を優位に進めようとしています。以上の様な両陣営の戦略から見て、台湾は台湾人民の自らの選択で台湾人意識への回帰の道を選ぶことになると考えられます。
 ではその結果、どんな結果が考えられるでしょうか?台湾は言うまでもなく中国から独立して生きる道、即ち知識経済社会への道を益々進めることになるに違いありません。即ち、自己中心主義からの脱却と人への貢献を求める社会へと転換するにちがいありません。品質、創意、サービス、スピードにおいて中国より優れた経済社会をつくることが急激に進みます。中国との関係においては利用できるところ、即ち低賃金・COSTメリットはフルに活用しながら、一定の距離を保ちながら台湾の産業経済技術力の優位性を形成する方向に向かうにちがいありません。その為には日本との協力関係の緊密さが、更に深まることでしょう。
 逆に、仮にブルー系が勝ったらどうなるか?も考えておく必要があります。
 ブルー系が勝ったなら、当然旧国民党色の強い政治体制が現出し、民主主義は後退することになるでしょう。当然中国は一つであり、中華民国は全中国を領有する国家として継続することとなります。産業経済面では中国との関係は更に密接化し、投資も増加し、三通はただちに実行するでしょう。中国との往来は便利になりますが、同時に台湾の中国化が進むでしょう。
当然日本との関係は、中国重視との前提条件のもとでの継続になるでしょう。しかし、高度な台湾への技術転換は即、中国に流れる危険性を持つことになります。

 従いまして、台湾の320選挙における選択は重大な分岐点であると言うべきです。もちろん北朝鮮にも大きく影響することはまちがいありません。台湾グリーン系が勝つと、日本の民族意識が高まる結果につながり、北への強行路線が強くなるでしょう。イラク問題が沈静化する6月頃には、アメリカの北への圧力強化と相まって、北朝鮮が追い込まれることも視野に入って来ます。
 320選挙は東アジアの命運を決める、と言って過言ではありません。

新原公司ホームページをご閲覧頂きましてありがとうございます。
本ニュースレターの内容に関して皆様のご意見をお待ちしております。
support@newfield.comまで送付下さい。

新原経営顧問(股)公司