皆川榮治のニュースレター 第20号(2003年02月24日)

日本と台湾の技術アライアンスの実例


 このニュースレターの読者には、台湾企業と提携した日系企業でご活躍の経営者の方が多いと思います。
 台湾人幹部を使って経営する毎日の活動の中で、なかなか日本でのようにうまく行かない、と嘆いておられる方も多いことでしょう。
 今日は具体的に成功事例をレポートしますので、日頃お悩みの方はご参考にして頂きたいと思います。

 自動車ピストンリングの大手、日本ピストンリング(株)が台湾企業と提携したのは1967年で、今から36年前になります。当初から資本及び技術提携でしたが、台湾経済の拡大と共に発展したものの、台湾自体が低成長化したことと人件費の上昇により、提携メリットのない時代を経過し、今はまた大いに提携価値を輝かせる時代に入っています。
この間の変遷について、日本から出向派遣されている現副董事長兼総経理(以下総経理―社長のこと―と呼びます)の戸上舜二さんを訪ね、インタビューしました。提携の成功・失敗が決して経済構造の変化や環境に流されるものではなく、経営者の先見性や的確な判断によるものであることがよく見える実例だと言えます。

  1. 提携の目的

     会社の名前は台和交通工業(股)公司と言います。(以下"台和交通"と称します)台湾にも自動車メーカーがありますが、当初から母工場(埼玉県にあります)の分工場として、親会社の生産の一部を分担する工場と位置づけられて操業を開始しました。現在では台湾の自動車メーカーへの納入(全体の20%程度)も行っています。
     ピストンリングと言うのは自動車メーカーにとっては、「最重要機能部品」に当たり、製造に当たっては特に品質・性能の厳しさを要求されるもので、同社は合弁開始の当初から日本の技術(スペック、つくり方、設備)と台湾の人材が相互に補完することを目指して取り組んできました。

  2. 提携の内容

     現在の資本金は108百万元で、構成は台湾側51%、日本側49%(内日本ピストンリング26%、大同メタル23%)で、当初からこの構成は変わっていません。
     日本側と台湾側の住み分けは明確で、台湾は資本のみを提供し、日本が経営及び技術を提供することになっています。また両者の関係はスムーズで、台湾側は役員会や株主総会に出席しますが、経営・技術に関しては全幅の信頼を日本側に与けていると言う良好な関係にあります。
     全従業員は140人で、うち日本人は総経理の戸上さんと工場長の2名です。

  3. 提携効果の変遷

     36年前の提携開始以来、日本市場或いは日本からの輸出市場向けの製品をつくる工場として発足しましたので、日本品と同等の品質・性能を求められて来ましたが、なかなか難しく、品質のみならず、特に納期対応の遅さを抱えながらアジア向けの輸出用工場として30数年の歴史を経過してきました。
     しかし、インドネシア工場が軌道に乗り始めた頃から納期のみならず、コストの劣勢が目立ち始め、更に日本品並みには遠い品質レベルを続けている中で、台湾工場の存在意義が小さなものになって来ました。
     記者は、先代の総経理にも、4年前にお会いしたことがあるのですが、「台湾人は日本人と違って細かいことが苦手でQCDのすべてにわたって、差が埋まりません。改革したくても彼らは直ぐに『台湾人はそんなことはやりません』と受け入れないのです」と語っておられたことがあります。
     しかし、99年の末に現在の戸上総経理が来られて、状況が一変し始めました。
     戸上総経理は、始めに会社を見られたときの印象を次のように語られました。

    (1) 幹部・従業員に長年の「ぬるま湯的習慣」が根づいており、打破できないでいる
    (2) 発展や改革を受け入れる体質がない
    (3) しかし、生産設備は能力の2分の1しか稼動していない

    そこで新総経理は次の方針を打ち出しました。

    (1) これからは台湾の常識でなく、世界の常識でものごとを考える
    (2) 改革に取り組む従業員をつくる
    (3) 世界の総需要を取り込んで行ける工場をつくる

     それから毎日世界に通用する工場づくりが始まるのですが、幹部・従業員の抵抗は予想を超えたものであったと言うことです。前任者達が台湾では「これ以上はムリ」と判断して諦めてしまった所以です。
     投資・経営・技術・設備等あらゆるアライアンスの分野で相手方と共同で進めるところに、アライアンスの難しさがあり、可能性の大きさがあるのです。
     長年培ってきたぬるま湯の心地よさの中で、利益を享受している人たちがいて、彼らにとって改革などは、全く迷惑な話しなのです。
     このような事例はよく見られますが、抵抗者達が改革への道を歩み始めるのは大変稀なことです。台和交通においてもそうでしたが、戸上総経理の説得は大変な時間がかかりました。毎日の話し合いはもちろん、会議のやり方、教育訓練、組織の改変、制度の見直し、政府を始め外部機関の活用・相談と大変苦労を重ねられました。ただ、この間董事長(台湾側)との関係がすこぶる良好であったことは大きな救いであったといえましょう。

     最大の抵抗者を処罰と言うかたちで、退職させたことによって、それまで改革について来れなかったグループが会社を去って行きました。この間1年数ヶ月がかかりましたがこれによって、日台アライアンス発展の可能性が大きく切り開かれることになりなりました。

     その結果、業績は次のように大幅に向上することになりました。

    '99年 '00年 '01年 '02年
    売上高指数 100 102 118 133
    経常利益率(%) 1.7 5.0 5.3 10.1

     一方、抵抗者がいたため、静かにしていたまじめな幹部達には教育訓練を継続して、 管理者のあり方を教育し続けていましたので、抵抗者達が排除されたあとは見違える ように力を発揮し始め、会社の中に活力がみなぎってきました。その結果が上記の業 績になったと言うことです。

  4. 今後の課題

     この3年間の努力の結果、今では母工場との住み分けは、台湾が多種少量生産機種 を担当する工場となり、時代の先取りをする工場に変質しつつあります。
     納期はかつて発注から4ヶ月かかっていたものが、今では2ヶ月(早いものでは1ヶ月内)となり、全工程多能工化と必要工程での2直・3直勤務が実現し、コストは日本 母工場の19.4%低い水準を実現しました。
     しかしながら、日本本社の主要顧客が中国進出を活発化する事態を迎え、本社の中 国拠点建設が具体化しつつあります。
     そこで、戸上総経理は次のような方針を打ち出し、台湾の生き残りを宣言しておら れます。

    (1) 多種少量生産で母工場より25%低コストを実現することによって、中国に負けないコストレベルを実現する
    (2) 中国工場進出の暁には、コミュニケーションのし易い台湾人幹部を派遣する用意をする

     現在中国で生産されているピストンリングの品質レベルはまだまだ低く、それを指 導しなければならない時期が来ることは避けられず、その為には台湾人幹部を派遣で きる準備を続けながら、例え中国工場が順調に稼動しても台湾工場が負けない体制を 築き挙げておこうと言う戦略です。

  5. 結び

     さて、海外企業との種々のアライアンスを実行する場合、アライアンスの内容にこだわりがちです。すなわちマーケット、立地、労働者、パートナー、対象技術(製品)、出資比率、対価等々はもちろん重要なことは言うまでもありません。しかし、同時に忘れてならいないことは、相手(政府、出資者のみならず幹部・従業員を含めた相手)との経営管理体制をどのように構築できるか?を考えることです。
     経営を相手に任せてもよい環境(例えば技術・商品が絶対優位にあり必ず利益が挙げられると言うような環境)にあれば、何ら心配はありませんが、少なくとも競争状態にある業種であるならば、(1)経営の主導権をとれる (2)方針・目標を貫徹できる経営管理システムを持ち込み実行し得ることがアライアンス成功の秘訣です。
     今回インタビューの台和交通さんは、失敗を成功に変質された好事例と言えましょう。
     「経営は楽しいですねえ」と言われる戸上総経理の目は、定年を過ぎたばかりのお年にも拘わらず、輝いていました。
     益々のご発展を祈ります。

新原経営顧問(股)公司